週が明け、今日からまた補習が始まった。
祭 「あれ? トガー、なんか日に焼けてない?」
会うなり、祭は珍しいものでも見つけたように、マジマジと俺の顔を見つめてきた。
泉実 「本当だ。まさか夏休みを満喫したりしてないよね?」
涼太 「なんでまさかなんだよ。いいだろ、満喫しても」
泉実 「じゃあ満喫したわけ?」
涼太 「……満喫ってわけでもないけど。ちょっと川に行っただけだ」
祭 「へー、何しに? 漁?」
泉実 「釣りじゃなくて漁っていうところが嵐野さんだね」
祭 「ハッハー! 1匹ずつなんてチマチマやってられないよなー!」
涼太 「……釣りでも漁でもなく、ただの川遊びだよ」
祭 「川遊びって、幼なじみズで?」
涼太 「いや、昨日はその……まあ、そんなの別に誰とでもいいじゃないか!」
祭 「あ、誤魔化そうとしてる。これは怪しいなぁ~」
祭 「アズは当然、トガーが誰と川に行ったのか、知ってるんだよね?」
渚沙 「へ!? べ、べべべべべ別に!? あ、あたしじゃないわよ!?」
泉実 「なんだ、東さんと一緒だったんだね」
涼太 「渚沙……」
余りのテンパりぶりに祭はニヤニヤ笑ってるし、こんなの自白したのこと変わらないぞ。
渚沙 「リョ、リョータだって、誤魔化すの下手だったじゃない!! あ、あたしは悪くないもんっ」
泉実 「二人きりで川遊びなんて意味深だね」
渚沙 「そ、そうかしら? 幼なじみなら、普通じゃない?」
涼太 「そ、そうそう。普通、普通」
もはや誤魔化すこともできず、二人してカクカクと頷きあう。
祭 「ふーむ……。二人で川になんて行ってなにしたわけ?」
渚沙 「だから……水遊びだってば」
祭 「ふ~ん。二人きりってのがうさん臭いね~」
涼太 「そんなことないって。俺たち、幼なじみなんだから」
祭 「幼なじみと言えば、子供のころは一緒にお風呂入ったりしたこともあるわけ?」
渚沙 「えっ!? ま、まあね……」
渚沙 「ふっ……」
祭 「なに最後の笑い? 謎に勝ち誇った笑いだったような」
泉実 「あれだよね、友達より先に大人になって優越感を感じてるみたいな」
祭 「え? じゃあもしかして二人って出来ちゃったの?」
渚沙 「ひゃぅ!?」
祭 「え……。冗談だったんだけど、マジなの……?」
涼太 「バ、バカ言うな。そ、そんなわけないだろ」
泉実 「本当かなあ?」
泉実 「もし二人がそうなったなら、お祝いしなくちゃって思ったのにね」
涼太 「そんな恥ずかしいことされたら、舌噛んで死ぬ」
僕たちエッチしましたー! わー! おめでとー!ってことだろ?
死ねる。
渚沙 『ごめん~、リョータ。変な誤解されちゃって』
渚沙の声が頭の中に聞こえて来た。“ひみつでんわ”だ。
涼太 『さっきの紛らわしい悲鳴はなんだよ!』
渚沙 『だ、だから、ごめんって言ってるじゃない~』
涼太 『あと、謎の勝ち誇った笑いも! なんであんなタイミングで笑うんだよ?』
渚沙 『それは……この中でリョータとお風呂入ったことあるのはあたしだけなんだなぁって思ったらなんか……』
涼太 『笑う理由がわからん……。紛らわしいことするなよ……』
渚沙 『だからごめんって言ってるんでしょ』
祭 「んー? 二人ともなに黙ってんの?」
ふと気づくと、祭が訝しげに俺と渚沙を見つめていた。
渚沙 『わわっ!? 以上、通信終わり。アウト』
祭 「やっぱりなんか怪しいな」
涼太 「ほ、本当になんでもないって。腐れ縁の幼なじみだから」
祭 「ふーん、まあ、そういうことにしといてあげるけど」
泉実 「どっちにしろ、二人は仲がいいってことだよね」
涼太 「それはまあ、な」
ずっと一緒にいるんだし、なんだかんだで仲がいいことは間違いない……よな?
渚沙 「………」
涼太 「……うっ」
でもなんか……。
最近、やたらと渚沙を意識するようなことが、増えている気がする……。
昼休み。廊下に出ると、後ろから追いかけてきた渚沙に話しかけられた。
渚沙 「リョータ、放課後は生徒会?」
涼太 「いや、今日はとくに仕事はないけど」
渚沙 「んん……。そ、そっか」
涼太 「なんだ? 生徒会室に忘れ物でもしたか?」
渚沙 「そ、そういうんじゃないけど……いざとなると緊張する、っていうか……」
いったい、なんの話をしているんだろうか?
渚沙 「…………それじゃ、さ。放課後……ちょっと付き合ってくれる?」
涼太 「い、いいけど、なにかあるのか?」
渚沙 「えっと……その、ちょっと、話があるっていうか……」
涼太 「……は、話?」
なぜこいつは俺に話しかけるのにこんなにも緊張しているのだろう。
俺も俺で、なんで声を震わせているんだ……。
涼太 「ここじゃダメ……なんだよな……?」
渚沙 「こ、ここじゃちょっと……。と、とにかく放課後、図書室に来てくれない?」
涼太 「と、図書室……?」
渚沙 「う、うん」
真っ赤になって小さく頷く渚沙。
渚沙 「…………」
涼太 「…………」
恐らく俺も、渚沙と大差ない顔をしているだろう。
心臓の音だけが妙に大きく聞こえて、それ以外のことがどこか遠くへ過ぎ去っていってしまうような気がした。
渚沙 「いいからっ。とにかく来てね!」
一方的にそう言うと、渚沙は逃げるように駆けて行ってしまった。
涼太 「ちゃんと返事、できなかった……」
まだ熱いままの頬を撫でながら、俺は小さくなっていく渚沙の背中を見送ることしかできなかった。
(to be continued…)