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ポケット・ストーリー

『約束の夏、まほろばの夢』 渚沙ルート 4-3

第四話『幼なじみと初デート』 (3)




    まるで子供のころのように思いきり遊び、気づけば夕方になっていた。

    俺たちはフラフラになって帰路に着きながらも、さっきまでの高揚感をどこか引きずっていた。


渚沙  「あー、クタクタ。リョータ、はしゃぎすぎよ」


涼太  「渚沙だってなんだかんだ言って乗って来たろ」


渚沙  「そうだけど……。これじゃ本当に子供のころと変わらないわ」


渚沙  「……ムードってものを、分かってないんだから」


涼太  「ん? なんだって?」


渚沙  「な、なんでもないっ。それより……」


    と、渚沙はふと声を潜めた。


渚沙  「今日二人で川に行ったことは、みんなには黙っておく……?」


涼太  「ま、まあ、そうだな。妙に勘繰られるのも、面倒だし」


渚沙  「そ、そうよね。じゃあ二人だけの秘密ってことで」


涼太  「わかった」


    帰り道、俺たちはそんな風に約束した。

    ……でも、そう上手く行くだろうか?







    夕食後、みんなでくつろいでいると……。


りんか 「あれ? リョー君、ちょっと日に焼けた?」


    りんかがマジマジと俺の顔を覗き込んでくる。


涼太  「そ、そうかな?」


    顔を背けながら答える。今日は半日水辺で日に当たっていたから、焼けていても不思議はない。


陽鞠  「なぎ姉も、鼻の頭ちょっと赤いです」


渚沙  「え、ホントに? 日焼け止めちゃんと塗ったのに~」


星里奈 「日焼け止めって、泳ぎにでも行ったのか?」


渚沙  「あ……」


    一瞬微妙な空気の間が生まれた。渚沙がしまったというように俺の方を見る。


歩   「そういえば、水着が乾してありましたね。二人分」


涼太  「う……」


    しまった、と思うがもう遅い。


歩   「いいですね。お二人で泳ぎに行ったんですか?」


りんか 「そうなの? リョー君となぎの二人で?」


星里奈 「ほほう、それは興味深い話だな」


    全員の視線が、俺と渚沙へ向けられた。


涼太  「そ、それはだな……」


渚沙  「た、たまたまよね? たまたま!」


涼太  「そ、そう! たまたまだ」


りんか 「たまたま二人で泳ぎに行ったってどういう状況?」


涼太  「それはなんというか……説明が難しいんだが……」


渚沙  「そーそー! 説明が難しい状況だったのよ!」




陽鞠  「クンクン……なんか匂いますね」


涼太  「や、やめろって、嗅ぐな」


    陽鞠の本能がなにかを嗅ぎつけたのだろうか? 思わず慌ててしまう。


星里奈 「おまえら、なにか隠してるな?」


渚沙  「そ、そんなことないわよ。ねえ?」


涼太  「ああ、なにも隠してないぞ?」


歩   「あっ。もしかして、隠さなきゃならないようなことを川でしたんですか?」


涼太  「な、なんだよ、隠さなきゃならないようなことって……!」


星里奈 「それを訊いてるのはこっちだ」


渚沙  「そ、そんなことしてないってばっ! ヘンなこと言わないでよね……」


りんか 「あれ? でもリョー君、今日は生徒会の仕事だって言ってなかった?」


涼太  「そ、それは……ちょっと予定が変わってさ……」


陽鞠  「……がお。嘘ですね」


涼太  「あ、能力使ったな!?」


りんか 「ちょっとー。どうして嘘つくのー? やっぱりやましいことがあるんだー!」


涼太  「いや、ほんとなんにもないんだって!」


    想像以上に大ごとになってしまい、白を切っていては収集が付かなくなってきてしまった。


渚沙  「……りんか、ごめん。あたしから無理に誘ったの」


    俺をかばうように、渚沙が言った。


りんか 「へ? そうなの? でも、どうして……?」


渚沙  「それは……ちょっと、リョータに話があって」


涼太  「話?」


    初耳だ。俺にはそんなこと言っていなかった。

    でも……。


陽鞠  「………」


    陽鞠は反応していない。

    ということは嘘じゃないってことか? それとも、陽鞠が能力を使ってないだけなのか……。


渚沙  「ちょっと、大事な話だったの。だから……ごめん」


    渚沙はりんかに頭を下げる。


りんか 「あ、別に本気で怒ってたわけじゃないの! 事情があったなら仕方ないよ」


りんか 「……川かぁ、わたしも川遊びしたいな~。今度わたしも連れてってよ」


涼太  「川自体は、この間遊んだばっかりだけどな」


りんか 「あのときは泳がなかったじゃん。今度は泳ぎに行こうよ」


星里奈 「泳ぐって、水着は持って来てるのか?」


りんか 「あ……そうでした」


涼太  「じゃあダメだろ……」


陽鞠  「水着なんてなくても、泳げますよ?」


    陽鞠はその気になったら本当に服のまま泳ぎそうで怖い……。


渚沙  「普通の人は服のまま泳がないのよ。本当は服着たままで泳ぐのは危ないんだからね」




りんか 「水着かー……。新しいの買っちゃおうかなぁ」


りんか 「って、よく考えたら、わたし手持ちのお金がほとんどないんだった」


    りんかは自分で自分に苦笑するように、たはは、と笑った。


歩   「りんかさんの水着姿が見れるなら、私が出してあげましょうか……?」


りんか 「ぶるぶるぶるぶるぶる……。こ、これ以上歩さんのお世話になるわけにはっ」


歩   「いいんですよ、そんなこと気にしなくて。……ただ」


涼太  「なにか問題が?」


歩   「ええ……。りんかさんのサイズに合う水着が、果たしてこの町に売ってるでしょうか?」


涼太  「え……?」


星里奈 「そうだな、私も店に頼んで取り寄せてもらったぐらいだ」


歩   「その星里奈さんより大きいんですから、生半可な水着でははみ出しちゃうでしょうね。ふふふ」


涼太  「は、はみ出すって……」


歩   「まあまあ、涼太さんてば、鼻の下がゾウさんみたいに長くなっていますよ」


渚沙  「リョ、リョータ!」


涼太  「ちょ、ちょっと! 歩さん、ヘンなこと言わないで!」


歩   「無茶を言わないでください。涼太さんをエッチな冗談でからかうのが、私のライフワークなんですから」


涼太  「そんなライフワークは今すぐ捨てて! なう!」


陽鞠  「でもお兄さん、ドキッとしてましたよね」


渚沙  「そうなのっ!?」


涼太  「し、してないしてないっ! 陽鞠もからかうなよ」


りんか 「確かに、家にあるやつはあんまりはみ出さないけど、あれも結局取り寄せだったなぁ」


涼太  「ちょっとははみ出すのか……」




渚沙  「リョータ!!」


    渚沙の叫びにみんなが笑い声をあげた。

    バカな会話をしているうちに、ようやく普段の空気が戻ってきたような気がする。

    しかし、渚沙が言っていた大事な話って、いったいなんだったんだろうか……?

    (to be continued…)