そして週末――。
渚沙 「気持ちいい~♪」
渚沙が大きく伸びをして声を上げた。
確かに、水の近くだから、ひんやりしていて気持ちがいい。
渚沙 「誰もいないわね」
涼太 「ああ、貸し切り状態だな」
最近はそもそも、ここらへんを通る人すらほとんど見ないくらいだ。
渚沙 「昔は、夏休みなんて子供たちがたくさん遊んでたのにね」
涼太 「小さな子供も、昔よりはずいぶん減ったからなぁ」
涼太 「ま、そのおかげで、俺たちが気兼ねなく使えるってわけだ」
渚沙 「それもそうね。それじゃ早速……」
そう言うと、渚沙はいきなり服を脱ぎ始めた。
涼太 「わ、バカ!? なに脱いで……」
思わず顔を背ける。
渚沙 「ジャーーーーン♪」
涼太 「……え?」
恐る恐る見ると、服を脱いだ渚沙は水着姿になっていた。
涼太 「……なんだ、下に水着、着てたのか」
渚沙 「当たり前でしょっ。リョータの前で着替えるわけないじゃない、なに考えてるのよ」
涼太 「そりゃそうか」
あー、ビックリした。焦った自分がバカみたいだ。
渚沙 「リョータも下に水着、着てるんでしょ?」
涼太 「ああ、バッチリ」
渚沙 「それなら、早く脱いじゃいなさいよ」
涼太 「おう、そうだな」
颯爽と服を脱ぎ捨てる。
涼太 「なんかこういうのも久しぶりな気がするな」
こうして川で水着姿になっていると、子供の頃に戻ったような気持ちになる。
昔は夏になるたびに、ここで泳いだものだった。
渚沙 「バーベキューはやったけど、川遊びなんて久しぶりだもんね。最後に川で泳いだのっていつかしら?」
涼太 「少なくとも去年は泳いでないかもな」
みんなと遊ぶこと自体、ここ数年はあまりなくなっていたのだ。
渚沙と二人で泳ぎに来ようって発想もなかったから、必然的に泳ぎに来る機会がなかった。
涼太 「………」
そう思うと、渚沙の水着姿も見るのは久しぶりか……。
渚沙 「な、なによ、じっと見て……?」
涼太 「いや……渚沙の水着、久しぶりだなと思って」
渚沙 「そ、そうね。あたしも、リョータの水着姿見るの久しぶりだし」
そう言って、渚沙も俺の方をじっと見つめる。
渚沙 「ちょっと、ガッシリした……かな?」
涼太 「そうかな? たいして変わらないと思うけど」
渚沙 「変わったわよ。……ちょっと」
涼太 「自分じゃよくわからないけど。でも、それを言うなら渚沙だって……」
渚沙 「な、なによ……?」
涼太 「……いや、あんまり変わらないか」
渚沙 「わ、悪かったわねっ、変わってなくて!!」
しまった、正直に言って怒らせてしまった。でも……。
涼太 「………」
よくよく見れば、胸の大きさは変わらなくても、腰のくびれができてたりして、女っぽく見えるようになった……かも……。
渚沙 「そんなじっと見るほど小さいわけ?」
涼太 「え? いや、違……」
渚沙 「リョータってば、本当にやらしいんだから……」
渚沙 「リョータのドスケベ!!」
渚沙はいきなり川に向かって走り出すと、
バシャッ!!
俺に向かって水をかけてきた。
涼太 「うわっ! 冷てっ!」
渚沙 「リョータがスケベだからよっ! えいっ!」
バシャッ! バシャッ!
川の水は夏でも冷たい。その冷たい水を、渚沙は容赦なく俺に浴びせてくる。
冷たい水を浴びるたび、俺の中の眠っていた野生がどんどん目覚めてくる。
涼太 「くっ、この……!」
飛んでくる水を避けながら、俺も川へと走る。そして……。
バシャッ! バシャッ!
渚沙に向かって迎撃を開始した。
渚沙 「うわぷっ!?」
涼太 「あはははは! 見たか!」
渚沙 「こ、このおっ!」
バシャッ! バシャッ!バシャッ! バシャッ!
数分も経たないうちに、俺たちはびしょ濡れになっていた。
涼太 「あははははは!」
渚沙 「なに笑ってるのよ~?」
そう言う渚沙だって楽しそうに笑ってる。
涼太 「俺たちって昔とやってることが変わらないよな」
渚沙 「あ、それ、あたしも思った。あたしたち、全然成長してないのかしら?」
涼太 「かもな」
冷たく感じていた水も、全身が濡れるほどになってしまえば気持ちいいぐらいだ。
気が付くと、水着姿の渚沙と二人きりで川に足を浸したまま肩を並べて立っていた。
渚沙 「ねえ、リョータ……」
涼太 「うん?」
渚沙 「……あたしたちってさ、本当に成長してないのかな……?」
涼太 「え?」
渚沙が、濡れたような瞳でこっちを見ていた。
渚沙はいつからこんな色っぽい目をするようになったんだろう……。
渚沙 「リョータはどう思う?」
涼太 「さ、さあ……でも、全然成長してないってこともないと思うけど……」
渚沙 「……だよね?」
渚沙はいったいなにが言いたいんだろうか。
そして、どうして俺はこんなにドキドキしてるんだろう……。
渚沙 「ねえ、リョータ」
涼太 「なんだよ?」
渚沙 「あたし、ね……」
渚沙の、その色っぽい瞳に、ますます胸がドキドキしてきた。
俺を見つめたまま、渚沙が一歩、俺の方へと足を踏み出す。
俺は石になってしまったように動けない。そして……。
(to be continued…)