渚沙 「わひゃっ!?」
バッシャーーーーーン!
突然、俺の視界から渚沙が消えた。
涼太 「って、転んだのか! 渚沙、大丈夫か!?」
慌てて転んだ渚沙を引っ張り起こす。
渚沙 「はぅぅ……川底の石がヌルヌルしててすべった……」
涼太 「大丈夫か? ケガしてないか?」
渚沙 「大丈夫。でも……鼻に水入った……」
涼太 「鼻に水……」
涼太 「わはははは! やっぱ子供のころと変わらないなー」
つい一瞬前まで、渚沙に女を感じてたのがバカみたいだ。
渚沙 「わ、悪かったわねえ……うう、鼻痛い……」
渚沙は、痛そうに顔をしかめて鼻の付け根を揉んでいる。
渚沙 「あ、耳にも水入ってる~。う~、気持ち悪い」
そう言って、渚沙は片足でケンケンしはじめる。そんな風にすると、さすがに水着の胸が微かに揺れた。
涼太 「………」
そんな姿を見ていて、またなんとも言えない気持ちになってしまう。
子供のころと変わらないようでも、やっぱり俺たちはもう子供とは違うのだ……。
渚沙 「うー、水出ない……」
涼太 「おい、川から上がってやった方がいいぞ。あんまり水の中でピョンピョンするとまた……」
ズルッ……!
渚沙 「あっ……!」
言ってるそばから、渚沙が足を滑らせてバランスを崩す。
涼太 「危ないっ!」
その身体を支えようと、とっさに渚沙の方へ手を伸ばした。
……え?
渚沙 「ひゃっ!?」
涼太 「うわっ!?」
手のひらに今まで感じたことのないようなやわらかい感触を感じて、思わず悲鳴のような声を上げてしまった。
ほんの一瞬だったけど、その感触は俺の手のひらに焼きつくように残っていた。
ないと思ってたけど、それでもこんなやわらかいものなんだな……。
見るのと触るのじゃ大違いだ。
渚沙 「………」
渚沙は顔を真っ赤にして固まっている。
涼太 「ご、ごめん! ……その、好きにしてくれ!」
鉄拳制裁を覚悟して謝る。だが……。
渚沙 「う、ううん……あたしが不注意だったから……」
渚沙 「支えてくれて、ありがと……」
赤い顔のままの渚沙に、礼を言われてしまった。
涼太 「お……おう……」
思わず拍子抜けした。
まさか渚沙の胸を触って、故意ではないにしても、礼を言われるなんて。
涼太 「うーむ……」
渚沙 「なんでほっぺたつねってるのよ?」
涼太 「夢じゃないかなと思って」
渚沙 「……なにそれ?」
涼太 「いや……それより、ケガないか?」
渚沙 「ん。大丈夫」
涼太 「そうか、ならよかった。……とりあえず上がるか」
渚沙 「うん……」
二人して水から上がる。
涼太 「………」
渚沙 「………」
すっかりまた妙な空気になってしまった。
まいったな……。
渚沙 「……あ」
涼太 「ど、どうした?」
渚沙 「耳の水……抜けたみたい」
涼太 「え? ああ……。よ、よかったな!」
妙な空気を吹き飛ばすように、ことさら大声で言った。
渚沙 「う、うん! よかった~! 耳に水入りっぱなしだと気持ち悪いもんね!」
涼太 「わかるわかる!」
渚沙 「そういえば、一度リョータ、なかなか水が抜けなくて大騒ぎしたことあったわよね~」
涼太 「そうだっけ?」
渚沙 「そうよ。小学校の低学年ぐらいのときかな?」
渚沙 「夜になっても抜けなくて、綿棒突っ込んだり頭振ったり逆立ちしたり、色々試して大騒ぎしたの」
涼太 「あー、あったあった!」
涼太 「結局なにやっても抜けなくて、でも寝て起きたらもう抜けてたんだよな」
渚沙 「そうそう! 懐かしいなあ」
本当に、やってることは変わらない。だけど、やっぱり俺たちはもう子供じゃない。
大人とも違うけど、もう子供でもなくなってしまったのだろう。
涼太 「………」
涼太 「よし! 向こう岸まで、どっちが早く泳げるか競争だ!」
渚沙 「え? なによ急に?」
涼太 「よーいスタート!」
バシャッ!
容赦なく川に駆け込み泳ぎ出す。
渚沙 「あ、ズルイ! フライング!」
涼太 「油断してる方が悪い! この勝負、いただき!」
渚沙 「ま、待ちなさい~~~~~~!!」
それから俺は、ことさら子供のようにはしゃいだ。
そうしていれば、難しいことを考えずに済んだから……。
(to be continued…)